糖尿病と漢方


 糖尿病は近年日本に於いては国民病と言えるほど患者数の多い疾患です。しかも完治し難く、長年にわたる病気へのフォローが必要になります。このような慢性病に漢方薬はとても役立ちます。

【糖尿病について】

 人間の命を維持するすべての生命活動の主要なエネルギー源はブドウ糖です。ブドウ糖は血液に溶けた状態で全身にはこばれ、インスリンというホルモンの働きで細胞に取り込まれ消費されています。ところが、何らかの理由でこのインスリンの製造元である膵臓の障害でインスリンが分泌されなくなったり、分泌されてもその働きが低下すると、ブドウ糖が細胞に取り込めず血液中に高濃度で漂う状態になります。これが糖尿病です。
 この場合、細胞では必要な量のブドウ糖が受け取れずエネルギー不足をおこしてしまい、ひどい空腹感や疲れやすいなどの症状をおこしますが、血液の中には異常に高濃度のブドウ糖が無駄に流れていて血管を障害し、また血液を薄めようとして体は水分を欲し、のどが渇いてしかたがないという状態になります。このままにしておけば、血管をはじめ心臓や腎臓、脳など全身に障害をおこし、生命の危険な状態になってしまいます。
 糖尿病の危険を抑えるには、血液中のブドウ糖の濃度をさげる事、つまり血糖値を下げる事が欠かせません。この場合、以下の二通りの糖尿病のタイプによって対処法が違います。

【1】 膵臓からのインスリンが最初からほとんど分泌されなくなって糖尿病をおこしている場合は、
インスリン依存型糖尿病(1型糖尿病)と呼ばれます。主に若いうちに突然発症するタイプで、インスリンを毎日一定量注射する事が基本的な治療法です。多くは食事療法・運動療法では病気の進行を抑えられません。そしてこのタイプは漢方薬も血糖降下の目的では効果が期待できません

【2】 一方、過食や肥満が原因で、インスリンは一応分泌されていても、徐々にインスリンの作用が低下して高血糖をおこしているような場合は、
インスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)といわれます。糖尿病の大半はこのタイプで、食事療法・運動療法が有効であり、効果が十分でなければその上で薬物療法を併用していきます。このタイプには漢方薬も効果的につかえます。
  
【漢方薬と糖尿病】
 漢方薬を糖尿病治療に使う場合、漢方薬の特性をよく理解して用いる事が大切になります。漢方薬は西洋薬に比べ血糖値を下げる力は強くありません。その代わり低血糖などをおこす危険はありませんし、体調を改善し合併症を予防する効果などは期待できます。以下に漢方薬の糖尿病に対する目安となる使用法を挙げてみます。
【1】糖尿病初期でまだ薬物療法には至らず、検査で血糖値が少し高い程度で食事療法・運動療法を中心に様子をみている段階では、漢方薬はとても有効に使えます。食事療法・運動療法の効果が効率良く発揮され,血糖のコントロールも漢方薬で十分行える事が多いですし、病気の進行や合併症を予防できます。また口渇、多尿、倦怠感、などの不快な症状を取る働きも期待できます。ただし漢方薬だけを飲んでいれば多少暴飲暴食をしても良い、というわけではもちろんありません。
【2】糖尿病中期で、内服の血糖降下剤の薬物療法を行なっている場合は、漢方はこうした西洋薬に併用する形で使うのが基本です。西洋薬と安心して併用できる漢方薬はもちろんありますし、併用する事で糖尿病の進行を抑え西洋薬をどんどん強くしなくてもよい状況に持って行けます。場合によっては症状が回復し、西洋薬の服用を中止できる例もあります。また、動脈硬化や腎臓病、糖尿病性神経障害、糖尿病性白内障などの合併症を予防または治療する働きも期待できます。
【3】糖尿病のタイプでインスリン依存型糖尿病(沍^糖尿病)の方や、長く高単位のインスリンを用いているような慢性例の方は、漢方薬では血糖をコントロールできません。私も時にこのタイプの方に漢方薬を飲んでインスリン止めていきたい、という相談を受ける事がありますが、漢方薬では限界があります。ただ、このタイプの糖尿病の方も、血糖値を下げる目的では使えませんが、漢方薬を合併症の予防や体調の維持に使う事には大いに意義があります。そのような観点で漢方薬を選ばれ服用される事をおすすめします。
    

【糖尿病に用いる漢方薬と民間薬】
 糖尿病に用いる漢方薬は、たくさんの種類があります。糖尿病の状態と自覚症状の有無によって選択していくのが基本なので、試される方は一度専門家に相談される方が良いでしょう。下の解説は大まかな分類によるものです。
 先の分類で【1】の糖尿病初期のタイプでは、多くの場合カロリー過多や飲酒など食事に問題があり、肥満傾向がみられる事が大半です。
 まだ強い自覚症状などがなく体力的にも問題が出ていない段階なら、肥満の解消も兼ねて大柴胡湯(だいさいことう)や防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などの適応になります。又、口渇が強い時には白虎加人参湯(びゃこかにんじんとう)なども瀕用されます。糖尿病初期では、これらの漢方で肥満の解消や体質改善、さらに血糖のコントロールも十分期待でき、治癒に結びつく事も稀ではありません。
 上の分類で【2】糖尿病中期では病気の進行に伴い様々な自覚症状や免疫力・体力の低下などの状況も徐々にあらわれてきます。漢方薬も体を補う働きを持った処方が多く選択されます。胃腸系が丈夫で小水が近いときは八味地黄丸(はちみじおうがん)・牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが瀕用され、それ以外では瀕尿・体力低下などを目安に清心蓮子飲(せいしんれんしいん)、寝汗や疲労感・食欲不振などを目安に柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などが使われます。
 更に病気が慢性化し、体力の消耗が強い時や高齢者では、漢方薬もより虚証用の人参養栄湯(にんじんようえいとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が全身状態や免疫力の改善にもつながり良い場合が多いものです。
 糖尿病の場合、特に問題になるのは血管が障害を受け血行が滞ることからおこる全身の症状です。この病状は、漢方では古くからお血(おけつ)という状態と考え、改善薬が沢山考案されてきました。慢性化した糖尿病の方で動脈硬化が指摘されたり、手足などに冷えや痺れ痛みなどが感じられる時は、お血を改善する作用のある桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や疎経活血湯(そけいかっけつとう)などがとても役立ちます。
 以上、糖尿病に対する漢方薬の選択例をごく簡単に挙げてみました。

 民間薬や健康食品
にも、色々な種類の糖尿病に良いといわれているものがあります。これらのものは体質や症状に関係なく使えるものが大半ですが、必ず誰にでも効果が上がるわけではないので過信は禁物です。食事療法の一環と考えて使うと良いでしょう。ただ、思わぬ著効がえられる場合もありますので、試す価値はあります。
 血糖降下作用を狙うなら桑の葉、たらの木、バナバ葉、れんせんそう、ギムネマの葉、クマ笹などの民間薬が良く利用されます。
 動脈硬化の改善を狙うなら、いちょう、柿の葉、クコの葉、ルイボスティー等が良く、糖尿病性の白内障にはめぐすりの木が効を発揮する場合もあります。
これらの薬草は、詳しくは別項の民間薬のページをご覧下さい。
 健康食品にも糖尿病に良いとされるものは多くありますが、ここでは血糖降下作用と動脈硬化の改善の両方がねらえる麦緑素をあげておきます。
   

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