高血圧と漢方薬


 高血圧症の血圧を下げる事に於いては、漢方薬は西洋薬の降圧剤と較べれば効果の早さや確実性の面で遥かに及びません。その為、現在では高血圧症に漢方を使うことは他の疾患に較べると少ないといえます。では高血圧に漢方薬を使う意義はあまりないのでしょうか? いいえ、漢方薬には降圧剤にはない大きな長所があるのです。少し長い話になりますが、おつき合い下さい。

 
【高血圧について】
 まず、高血圧の種類についてですが、大きく原因で分類すると、本態性高血圧といわれるものと二次性高血圧に二分されます。本態性高血圧とは、これという原因が特定できず、遺伝や加齢・肥満・食生活などの複合要素が関連して血圧が上がると考えられるタイプです。高血圧の大部分、9割はこの分類に入ります。病院で単に高血圧と診断された場合は、本態性高血圧を指していると思って良いでしょう。二次性高血圧は、原因となる疾患が存在し(腎臓疾患・中枢神経系の異常・内分泌系の疾患など)その影響で血圧が上がっているもので、全体の5〜10%がこのタイプです。二次性高血圧では血圧を下げるだけではなく、原因疾患の治療が優先されます。漢方薬はどちらのタイプにも使えますが、二次性高血圧では、原因疾患によってはまず漢方より西洋医学的治療に重点を置くべきケースが多いといえます。従って以下の記述は主に本態性の高血圧患者さんを対象にしたものと考えて下さい。

 ちょっと横道にそれますが、
大切なことなので血圧そのものについて少し考察します。本来血圧というのは常に変動しており、血圧が一時的に高くなるのは生理的な正常反応と言えます。身体が大量の血液を必要としている場合、例えば集中して考え事をしている時や、重いものを持つ運動などをする時では、それぞれ脳や筋肉などでいつもより多くの酸素やエネルギー源になる栄養を必要とする為、身体は少しでも多くの血液を細胞に送り込もうと心臓の回転数を上げ、結果として血圧が上がります。(細胞が必要とする酸素や栄養素はすべて血液が運んでいます)普通の方でもこのような時に瞬間的には最高血圧が180位まで上昇しているのです。
   
 では高血圧症の場合は、どうでしょうか?高血圧では、上のような身体が血液を特に多く必要としている時以外の安静時や通常時でも、常に血圧が高い状態が続いています。これはなぜでしょう?いろいろな原因がありますが、ごく大まかにその成因を挙げると、
1、身体はそれ以上の血液を必要としていないのに、血圧を制御している神経やホルモンなどのコントロールシステムが壊れていて不必要に血圧が高いケース
2、安静時や平常時にもかかわらず、血行が悪い為に身体の一部に血液の足りない部分があり、それを補う為に血圧があがっているケース
が代表的な原因として考えられます。は、二次性高血圧の範疇に入り、漢方薬では降圧作用があまり期待できないので、まず病院で西洋医学的治療を受けていくべきです。は分類としては大部分本態性高血圧になります。高血圧症の患者さんの多くはこちらの成因に入ると思われます。一般にはこのような方も一律で降圧剤を投与して血圧をコントロールします。が、はたしてそれですべて良しといえるのでしょうか?

 
の症例では、実際に新鮮な血液が不足している組織がある為に、血圧をあげることで血液循環量を多くしているので、薬で強制的に血圧を下げると、増々病位の血液不足を増長してしまいます。たとえば、脳への血行が悪くて血圧が上がっている場合では(血液を一番必要とする臓器は脳です)、降圧剤で強制的に正常値まで血圧を落してしまうと、見た目は正常に戻りますが実は血行が悪くなっている元々の原因はそのままですので、脳は慢性の血液不足をおこしてしまうと思われます。その為血圧は正常でも頭重感が残ったり、頭がボーとしたりする自覚症状はなかなか取れません。
  
 私が教わった漢方の先生は、常々降圧剤を使う患者が増えるにしたがってボケる老人も増えてきたと言っていました。これは上の理由で血圧を下げることのみを優先して降圧剤を用いる為に、脳への血行が悪くなり脳細胞が早く死んでいってしまうという考えです。この説は先生の個人的な考えで、医学的な証明などは全くされていないものです。しかし私も理屈としては頷ける部分があり、又漢方相談の経験を積むにしたがってこの説を裏付けるような例を多く経験し、降圧剤だけに頼った血圧管理には問題があると考えるようになりました。
 今の降圧剤は良く効く上に安全性も割合高いので、医者も一度降圧剤を処方しはじめると一生のみ続けるような方針を取る事が多いのですが、本当ならば降圧剤を服用しながら血圧を上げる原因となる要素(肥満・飲酒・喫煙・運動不足など)を改善し、その上で降圧剤をできるだけ早く中止する方向に努力を払うべきでしょう。

 漢方薬は血圧を強制的に下げる効果は降圧剤に較べ遥かに弱いのですが、血液の質を改善しさらさらと流れやすくしたり、詰りかけた血管の動脈硬化の状態を改善したり、肥満の改善に役立ったりと、高血圧の本元となる原因そのものに効果を発揮し、結果として血圧を下げていきます。その為、降圧剤としての切れ味は西洋薬に及びませんが、本当の意味での病気の治癒、という観点から見ると現代でもとても意義があります。病院の降圧剤を服用しながら漢方薬も併用するというような使い方も、とても合理的なのでもっと広く使われても良いと思います。降圧剤さえ飲んでおけば血圧は安定しているので、漢方薬は必要無いといってしまうのは早計であるし、場合によっては後で高いツケを払わされることになるかもしれません。体は本当に正直ですから。 
  

【高血圧症と漢方薬】
 先に書いたように高血圧症に対する漢方薬には、血圧を強力にすぐ下げる処方はありません。しかし高血圧をおこしている原因を改善し、徐々に血圧を安定させることはできますし、高血圧に伴う不快な随伴症状(頭痛・頭重・イライラ・のぼせ・不眠傾向・肩こり・耳鳴り・手足のしびれ・動悸など)はすみやかに改善できる場合が多いものです。無症状の高血圧に対しても、将来的なことを考えると使うことのメリットは大きいといえます。以下にはタイプ別の良く使われる漢方薬を紹介します。
   
【実証タイプ】 比較的体力があり胃腸も丈夫な人 
 のぼせやイライラがあり赤ら顔でやや便秘気味の方には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)、筋肉質で肥満傾向やイライラのある方には大柴胡湯(だいさいことう)脂肪太りで肩こりや便秘気味の方には防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などが代表的です。これらの処方は肥満や便秘・ストレスなど、血圧を上げる原因部分の改善も狙えます。
    
【中間証タイプ】 体力的に普通程度の方
 ストレスが多く不眠や動悸など自律神経のバランスが崩れ気味なら柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、頭痛・頭重があり動脈硬化の傾向がある方は釣藤散(ちょうとうさん)、血行不良が強く肩こり・頭重がある血液のどろどろしているタイプに桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、のぼせや胃の不快感の強い方には黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が良く使われます。
  
【虚証タイプ】 体力的に比較的虚弱な方
 胃腸が弱くないタイプで冷え性、瀕尿・腰痛などがある高齢者には八味地黄丸(はちみじおうがん)、貧血傾向・冷え性・胃腸虚弱などの方は七物降下湯(しちもつこうかとう)などを頻用します。これらの処方では、体力をつけたり貧血を改善したりする補剤的な働きも期待できます。
   
 高血圧症に使う漢方薬は他にも多種に及びますので、ご自分のタイプがハッキリしない方は必ず漢方の専門医か漢方薬剤師に相談して下さい。
  
 軽い高血圧や予防の為という目的なら、薬草茶や民間薬を毎日飲むのもとても良い健康法です。それぞれには強い降圧作用は期待できませんが、長期服用で血圧の上がりにくい体質にするのに役立ちます。
 高血圧に使う代表的な薬草を以下にいくつか挙げます。
・柿の葉 ルチンやタンニンを多く含み血管強化に役立つ高血圧用のお茶の代表です。
・ルイボス茶 抗酸化作用があり動脈硬化気味の方に良い美味しい茶です。
・ドクダミ 便秘気味の高血圧の方には特に良いです。
・クコの葉 血圧には実でなく葉のお茶が効果的です。
・いちょうの葉 これも抗酸化作用があり動脈硬化気味の方に良いお茶です。
その他を含め、詳しくは民間薬のコーナーをご覧下さい。

  

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