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- そもそも自律神経って何?
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神経とつく単語にはいろいろな種類があります。運動神経、反射神経、中枢神経、末梢神経、自律神経…etcなどの言葉がまず思い浮かびます。神経という言葉は日常生活ではあまり意識せずに無神経に使われていますが、医学的には厳密に分類されています。
- 神経系の分類は、専門的には非常に細分化され難しいので、ここではごく簡単に必要な部分のみ解説します。神経をその働きの面から考えると、次の2つに大きく分類されます。一つは精神活動などを受け持つ神経や痛みや熱寒などを知覚する神経、筋肉を動かす運動神経などを体性神経系(動物神経)、もう一つはその他の生命活動を支える機能を自動的に支えている自律神経系(植物神経)です。要するに、神経はその機能面から、見る聞く・考える・感じる・運動する等の働きを司る体神経系と、心臓を動かす・食べ物を消化する・体温を一定に保つ・呼吸をする・新陳代謝を保つ等を司る自律神経系に二分されます。前者は大部分を自分の意志で直接感じたりコントロールしたりできますが、後者の自律神経系はその字の通り自立したオートメーションの神経で、自分で感じたり意志でコントロールはできません。まあ、自分の意志で今日は血圧を少し下げとこうとか、寒いから体温をあげようなんて芸当は普通できませんよね。このような意識とは直接関係なく自律して指令を出して活動をしている神経系統を大まかにまとめて自律神経系と称しています。熟睡していたり場合によっては気絶しているような意識の無い状態でも心臓が動いていたり呼吸を続けられるのも自律神経のおかげです。以上が自律神経のおおまかな説明ですが、何となく理解していただけたでしょうか?
- 自律神経はもう少し踏み込むと更に交感神経系と副交感神経系に二分されます。これらは一般に各臓器や機能に対するアクセルとブレーキのような働きをもちます。たとえば心臓に対し交感神経系が働けば心拍数が上がり、副交感神経系が働けば心拍数が下がる、という具合です。主に交感神経は体を活動するのに適す状態にし、副交感神経系は体を休息、回復させるのに適する方向に働きます。
- 誤解しやすいのですが、各臓器や機能に対し交感神経がアクセルで副交感神経がブレーキの働きをするという単純な図式ではありません。胃腸などの消化器は逆に交感神経がブレーキとして働き副交感神経がアクセルになります。
体の臓器や機能は活動時(言い換えると運動時)に必要な部位と、休息時にさかんに動き始める部位に分かれます。大まかに分類すると心臓や循環器系などは前者にあたり、交感神経系がアクセルとして機能します。胃腸など消化器系の内臓などは後者になり、副交感神経系がアクセルとして働きます。
- 例えば運動会の100メートル走のスタート直前では、これから走る(運動する)という前提のもと、交感神経が盛んに指令を出し、走る前から心臓がバクバクと動いて血流を増し筋肉の隅々まで十分な酸素とエネルギーを行き渡らせスタートに備えます。この間胃腸には交感神経によるブレーキがかかり、活動は低下しお腹が空いたり大便がしたくなるような事はおこり難くなります。そして競争が終わってしばらく時間が経過し、体が休まると今度は副交感神経が活動を始め、胃腸などの消化器系が働きだして(副交感神経によるアクセルがかかって)空腹を感じたりし始める一方で、心臓や呼吸などはブレーキがかかり脈拍などは落ち着いていきます。
従って100メートル走スタート前の緊張している状況で、いつも食物が欲しくなったり便を催すというような方は、自律神経失調症になりやすい体質といえるかもしれません。
- 自律神経失調症の定義は難しいので一言ではなかなか説明し難いのですが、この交感神経系と副交感神経系の働きがバランスを失い混乱を起こしている状態、とも表現できます。
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- 自律神経失調症(不定愁訴症)ってどんな病気?
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自律神経失調症は、最近特に増えている現代病の一つと言えるでしょう。ただ、実際には自律神経失調症というのは正規の病名ではなく、いろいろな不定愁訴を訴えるが検査等で異常が無く原因が特定できない場合に、便宜上自律神経失調症という診断名にしている場合も多く、単一の病気とは言えません。広義には、更年期障害や過敏性腸症候群、神経症(ノイローゼ)、心臓神経症、過換気症候群なども含まれている場合があります。
(東洋医学では、特にこれらの疾患名の分別を厳密に行う必要はなく、むしろ次の症状のタイプが重要になります。)
自覚症状にはかなり個人差がありますが、一般には『体がだるい、頭痛や頭重、めまい、からだがふわふわする、集中力が低下する、のどになにか詰まった感じがする、吐き気がする、みぞおちあたりが苦しい、肩がひどくこる、体が冷える、のぼせる、手足がほてる、耳鳴りがする、下痢し易い、お小水が近い、微熱がでる、病的な汗をかく、動悸がする、しびれる、食欲の異常』などのからだの症状と、『いらいらしやすい、不眠、漠然とした不安感、気持ちが沈む、人ごみや乗り物などが苦手になる、物音に敏感になる、やる気が出ない』などの精神的な症状が代表的です。これ以外にも患者さんによっていろいろな症状が出現します。しかし先に述べたように検査で特に異常が無く、西洋医学的にはあまり良い対処法がとれない事も多く、精神安定剤や自律神経調整剤も十分な効果がでない症例が多いのが現状です。また、生命に危険が及ぶ病気ではないので、気のせいとか気にしすぎとかいわれてしまい、病院でもあまり真剣に治療にとりあってもらえない事もあるようです。しかし実際は、患者さん本人には他の病気と同様苦しい症状が強固に存在しますので、気にするなですむ問題ではありません。
病気のメカニズムは、おおまかにいうと先の交感神経と副交感神経の働きのバランスが崩れる事であるといえます。交感神経が働くベき時に副交感神経が優位に働いたり、逆に副交感神経が働くベき時に交感神経が優位になったりする異常が発生します。すると休息して落ち着いている時に、急に心臓の心拍数が上がってしまったり、集中して仕事をすベき時に猛烈に眠くなったりというような症状がおこると考えられます。自律神経の働きは非常にたくさんあるので、どこのバランスが崩れるかで症状もまったく変わってきます。患者さんにより症状が様々に違うのはこのような理由からでしょう。
自律神経失調症の原因は、ハッキリ特定出来ない症例も少なからずありますが、ストレスや生活環境の変化、昼夜が逆転した生活、疲労の蓄積、出産や他の病気の病中病後などの体力の消耗時、更年期などが引き金になる事が多いようです。また、性格的には真面目な方、神経質な方、責任感の強い方、繊細な感性の方などがかかり易い傾向がありますが、精神面や性格は関与していないと思われるケースも多数あります。
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- 尚、自律神経失調症と精神分裂症(統合失調症)などの精神病等は、よく似た自覚症状もありますが厳密に区別する必要があります。精神病の範疇に入る疾患では上のような症状と同時に、幻覚や幻聴、強固な強迫観念、強い鬱状態、などを伴います。また本人より先に周りの人が、独り言をいう・性格が変わった、などから異常に気付く事も多いものです。このページの最初に書いた神経の分類でいえば、自律神経系以外の体性神経系の中枢神経、大脳皮質などの機能にも異常がある場合が多いのです。 これらの疾病は進行性のものもあり、漢方療法よりも先にまず西洋医学的療法を優先させるべきです。分裂症などの精神病に使う漢方薬もあるのですがあまり効果的とはいえず、現在では西洋薬の方がはるかによく効きます。いずれにしても思い当たる場合は、一度は精神科もしくは心療内科、神経科などの専門医に相談して判断を仰ぎましょう。
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